所在する地域内における機能的なネットワーク、ハード・ソフト・ヒューマンの複合重層構造、部門間ネットワーク、顧客ニーズの階層別変化とそれに伴う必要サービスの変化、所有・経営・運営の効率性とハード・ソフト・ヒューマンが織りなすホテルとしての「人格」、ブランドなどなど。ホテル・旅館は、これらのすべてを背景として、収益性が規定されます。また、こうした複合重層ネットワークの中で機能するビジネスモデルであり、出張などの宿泊ニーズからストレス社会に光を放つ観光産業までの貴重なインフラストラクチャーとして、非常に重要な産業の一つであることは間違いありません。
しかしながら、その事業性を見ると、上記のとおり、非常に複雑なものとなっています。当社では、ホテル・旅館を構成する要素を、ハード・ソフト・ヒューマンなどの機能面、また、その背後にある所有・経営・運営のビジネス形態面と効率面、さらには、それらをどのように顧客が認知しているかという顧客認知面などから多角的にアプローチ。対象ホテル・旅館のカテゴリーに応じて、将来の可能性やポテンシャルも含めた真の「価値」を、明らかにします。
不動産の価値とは、通常の使用能力を有する者による合理的且つ合法的な最高最善の使用方法(最有効使用という)を前提に、求められる価値をベースとします。敷地の最有効使用は何なのか、また敷地の潜在的用途と実際の建物用途が合致しているか否か、敷地の最有効使用分析は、どのようなホテル・旅館においても重要調査項目です。もし仮に敷地の最有効使用がホテル・旅館以外の場合には、長期的観点から市場により現状用途性を否定される可能性もあり、敷地の最有効使用分析には慎重な判断が求められます。
また重要な全対象共通調査事項として、ビジネスモデル、ビジネスストーリーの有無が挙げられます。マクロ的なホテル事業、旅館事業という視点ではなく、よりミクロ的な対象ホテル・旅館固有のビジネスストーリーの有無が収益安定性、引いては市場価値に大きな影響を与えます。
ホテル・旅館が提供する商品の特徴に着目する視点としては、「無形性=見えないものへの価値」があります。料金設定によっても異なりますが、支払う料金に見合った満足を与えてくれるという、ホテル・旅館に対する事前の期待・信頼感が、ホテル・旅館の潜在的収益性の源泉として、非常に重要な要素となります。こうした観点から、当社では、直接目に触れるハードとしての施設、明白な立地性もさることながら、人的サービスや、そのサービスを提供する組織運営などの品質(安定的・継続的な人的サービス提供の仕組み)を調査対象とします。
需要分析では、需要源の有無、所在、その動向や現状顧客層および潜在的顧客層の需要特性調査、消費行動パターン予測(デモグラフィクス、その他職業、ライフスタイル)、そして、顧客ニーズと提供サービスとのギャップの有無などを分析いたします。また、供給分析では、競合施設との間における強み・弱みなどを確認のうえ、それぞれのセールスマーケティング状況、実際の顧客獲得状況を調査いたします。
上記の需要-供給分析を踏まえ、対象施設(ホテル・旅館)を取り巻くマーケットの現状と今後の動向予測(外部環境調査)を行います。さらに、リスク(純収益の変動リスク)という観点からは、マーケットリスク、ロケーションリスク、マネジメントリスク(衛生管理なども含みます)、建物リスク、権利リスク、環境リスク(土壌汚染、環境要因など)、行政リスク、テナントリスクなどについて、現地調査に基づき包括的に調査いたします。
以上の手続きの結果作成される鑑定評価書は、マーケット環境を調査・分析し現状および将来環境を予測し、現状の運営状況についてブランド力、集客力、サービス提供力を把握したうえで、現状経費構造を重ね、収支構造として提示するものです。また同時に、潜在的運営リスク、その他環境リスクも含めた様々なリスクプレミアムを勘案した現況を所与とした市場価値として可視化する、つまり、人間ドックのホテル・旅館版である「ホテル・ドック」「旅館ドック」ともいうべきものとして、有用な情報を提供するものです。